• 月曜日 , 24 7月 2017

呼吸、横隔膜が姿勢や体幹、アスリートのパフォーマンスにも影響を与えるワケとは?

「呼吸が正常にならない限り、その他の動作パターンは変わることはないだろう」

これはチェコの著名な医師でありリハビリテーションの先駆者である、Karel Lewit(カレル・レウィット)という人が残した言葉です。

ここ数年、スポーツ医学やアスレティックトレーナー、ストレングス&コンディショニングの分野、つまり様々なジャンルのアスリートのパフォーマンスアップを担当しているトレーナーの方々たちの間でも、呼吸にフォーカスを大きく当てたトレーニング方法が注目を集め、人体の根本的な考え方についてもパラダイムシフトが起きています。

中でも、イチロー選手のトレーナーをオリックス時代からマリナーズ時代まで長年務め(シアトルマリナーズのチームトレーナーとして9年間活動)、メジャーリーグのレジェンド、ケン・グリフィー・ジュニア選手や、メジャーリーグで25年間活躍して最年長勝利の記録を達成したジェイミー・モイヤー投手、メジャーリーグ2017年年俸ランキング7位のフェリックス・ヘルナンデス投手やゴルフの宮里優作選手など、そうそうたるトップアスリートのパーソナルトレーナーを務めてきて現在も活躍している、森本貴義さんという方は自らの書籍でこんな印象深いコメントを残しています。

「私はこう断言してもいいと思っています。スーパーアスリートと言われる選手たちは全員、呼吸が上手、つまり横隔膜を機能的に使えているのです。逆を言うと横隔膜を使えない選手たちはスーパーアスリートにはなり得ないのです。」

出典:勝者の呼吸法 – 横隔膜の使い方をスーパー・アスリートと赤ちゃんに学ぼう! – (ワニブックスPLUS新書)より

呼吸が上手?横隔膜を機能的に使えている??

これは一体どういうことなのか?

今回はそんな呼吸に関しての記事を書いてみたいと思います!

スポンサーリンク

呼吸が上手、下手とは一体??

人は1分間に12~20回ほど、1日に換算すると2万回以上呼吸をしています。

その呼吸というのは、肺が単独で膨らんだりしぼんだりして酸素を取り入れ、二酸化炭素を吐き出しているわけではなく、肺のすぐ下に付着している筋肉の『横隔膜』(横隔膜は“膜”という名前ではありますが筋肉です)が収縮し、下に引っ張られることで肺に空気が流れ込み(息を吸っている状態)、反対に横隔膜が弛緩して元の位置に戻ることで、肺の中の空気が自然と押し出されるような形になり(息を吐いている状態)、呼吸というのは成立しています。

つまり肺のすぐ下にある横隔膜の上下動が、自分の力で膨らんだりしぼんだりできない肺をピストンするような形で空気を出し入れしているということです。

「呼吸が上手ではない」、「横隔膜を機能的に使えていない」というのは、この主呼吸筋とよばれる横隔膜の上下動がうまくいっていない、言い換えると“息をちゃんと吸えていない”、または“息を吐き切れていない”ということです。両方とも呼吸が浅いというようにも言えますね。

息をちゃんと吸えていない人というのは、横隔膜が下に引っ張られる動き(収縮)が少ないため、肺に流れ込んでくる空気の量も少なくなってしまうということ。

息を吐き切れていない人というのは、息を吐いている時に横隔膜が完全に弛緩して元のあるべき位置に戻れていない=横隔膜が肺から空気を押し出すということが不完全になっているということです。

ざっくりではありますが、「息をちゃんと吸えていない=横隔膜が収縮しきれていない」、「息を吐き切れていない=横隔膜が弛緩しきれていない」ということになります。

まず息をちゃんと吸えていない=横隔膜がちゃんと収縮しきれていないというのは、外からあまり酸素が入ってこないということなので、息苦しくなってしまうのは想像に難くないと思います。

しかし、息をちゃんと吸えていないという人は多いのですが、実際には何か疾患でも抱えていない限り普通に生活していて呼吸困難になっている人はいませんよね。

人間はこの横隔膜が下がらなくなって息がしっかり吸えていない状態になった時というのは、“姿勢を変化させる”ことで息を吸う事を成立させています。

ここで少し想像して頂きたいのですが、皆さんが走ったり運動をしたりした後に疲れて息が荒くなっている時というのは一体どのような姿勢になっているでしょうか?

本当に息が切れるぐらい疲れているならば、この時に直立した姿勢や堂々とした立ち姿、良い姿勢でいれる人というのはあまりいないですよね。

手に膝をついたり、または背中を少し丸めぎみに頭を前に出しながら歩いたり、そうならないまでも肩が上がっていわゆる肩で息をしている…といった状態になるのではないかと思います。

これは酸素を少しでも楽に吸えるように、体が順応して無意識にそういった姿勢になっているということなんですね。

こういった姿勢をとった時点で、肋骨がすでに上に上がっている状態でもあるわけですが、息を吸ってさらに上がるため、姿勢を変えることで先に軽く上げておき、息を吸った時に楽に上げられるようにしているというイメージですね。

つまり主呼吸筋である横隔膜がしっかり機能していなくて息をちゃんと吸えていない人というのは、そのままでは吸い込める酸素の量が少なくなってしまうので、副呼吸筋をメインに頼って呼吸をするようになってしまう、

そして副呼吸筋が楽に肋骨を上に持ち上げれるよう、常時背中が少し丸まってストレートネックのように頭が前に出て…という運動後に酸素不足で息を切らした時まではいかないものの、それと似たような姿勢が自然と常態化してしまうという問題があります。

では「息を吐き切れない」ということにはどのような問題があるのでしょうか?こちらも姿勢に関係が出て来ます。

ヨガのクラスなどに通った経験などがある方は、インストラクターの方に「呼吸は吐くことが大事」というのを一度は聞いたことがあるかもしれませんね。

息を吐き切れていないということは、つまり常に肺に酸素が残ってしまっているということ。

「酸素が残ってるなら別に良くない?」と考えてしまうかもしれませんが、呼吸の役割というのは肺に酸素を溜めることではなく、体内で酸素を使った時に排出される、言わば老廃物ともいえる二酸化炭素を排出して、次の新しい酸素を取り込むという「気体交換」をすることに意義があります。

息を吐き切れないというのは、そのままでは身体の中の酸素と二酸化炭素の量のバランスがおかしくなってしまい(二酸化炭素が多くなってしまう)、pHバランスが崩れて細胞が上手く機能しなくなってしまうということなので、本能的に人間はより多くの酸素を体に取り入れようとすることで釣り合いをとろうとする…

つまり先ほどの息を吸えない人と同様、首肩周りなどにある副呼吸筋を使いやすいように姿勢を変化させて酸素の摂取量を増やすという選択肢をとってしまうんですね。

 

息をしっかり吸えなくなる原因とは?

ではなぜこのような「息をしっかり吸えない」(横隔膜が収縮してしっかり下がらない)、または「息を吐き切れない」(横隔膜が弛緩してしっかり上がらない)といったようなことが起きてしまうのでしょうか?

まず「息を吸えない」(横隔膜が収縮してしっかり下がらない)のは、運動不足などによる横隔膜の筋力低下が一因として挙げられます。

実は横隔膜は呼吸機能の他に、体幹部の安定性を生み出すという役割も持っています。

大人になって、子供の頃のように部活や体育の授業や遊びなどで強制的に体を動かす機会がなければ、「ぜーぜー」と息を切らすぐらい呼吸を沢山することはなくなりますし、運動することで得られる体幹部への刺激も少なくなるので、活動する機会の大きく減った横隔膜の筋力が衰えていってしまうということですね。

特に女性は男性と比べて元々の筋力が弱いため、この横隔膜の筋力が低下する事による「息をしっかり吸えない」という状態になりやすい傾向にあるようです。

 

息を吐き切れなくなる原因とは?

では「息を吐き切れない」(横隔膜が弛緩してしっかり上がらない)というのは、どういった原因があるのでしょうか?

これは横隔膜の“過緊張”に原因があります。心の緊張などでストレスがかかった状態が続けば、“闘争の神経”とも言われる交感神経が優位な状態が続いて体の緊張が高まり、小刻みに浅い呼吸が続き、自然と吐くことも少なくなってやがては横隔膜がリラックスするということも忘れ、弛緩して上に上がるということも出来なくなることが「息を吐き切れなくなる」原因に繋がってしまいます。

ちょうど以前の記事「コナーマクレガーのコーチが語る、何故マクレガーは強いのか?」で使用した画像で、わかりやすく肋骨が前に出てしまっている画像があるので、そちらを載せておきますね。

(そういえばマクレガーもUFC Magazineに掲載されていたインタビューで、「呼吸は格闘技に見逃されがちな要素だ。でも、呼吸をコントロールできるならあらゆることをコントロールできることになるんだ」と話していたことがありました)

特に左側の肋骨(こちらから向かって右側)が出てしまっているのがわかりやすいかと思います。(“左側の肋骨の方が前に出やすい”というのにも偶然ではなく明確な理由があるのですが、説明が少し複雑になってしまうので今回は割愛します笑)

またこの息を吐き切れない原因として、“無理に胸を張った”立ち姿勢の習慣なども挙げられます。

横隔膜は肋骨の7番~12番に付着しているのですが、無理に大胸筋を張った姿勢が続くと肋骨も前方に移動する分、引っ張られるストレスが加わわってこれも横隔膜の過緊張持続による、横隔膜が完全に弛緩して息を吐き切れなくなることの原因になってしまいます。

(胸を張って姿勢を正せというのは昔から言われますが、無理矢理に力をかけるようにして大胸筋を張るというのは間違いで、姿勢が改善して正しい呼吸が身に付けば、力みなく“自然と胸が張れている”状態になります)

先述した「息をしっかり吸えない」ということもひっくるめて言えることですが、呼吸と姿勢は表裏一体で「呼吸が悪ければ姿勢も悪くなるし姿勢が悪ければ呼吸も悪くなる」んですね。

 

なぜ呼吸を改善することが運動のパフォーマンスアップにも繋がるのか??

冒頭にて、呼吸に大きくフォーカスを当てたトレーニングがアスリートの現場でも取り入れられてきているということを述べました。

なぜ呼吸が改善すれば、運動パフォーマンスも高められるのでしょうか?

息を吸えない、または吐けないというのが姿勢にも影響を及ぼしてくるということを述べましたが、やはりこの姿勢というのが運動でのパフォーマンスにも影響してきます。

まず「良い姿勢」、理想的な姿勢というと、よく病院や治療院などにも貼られている下記のような図を想像する方も多いと思います。

出典:http://www.tc-bcs.com/chiro04.html

確かに理想的な姿勢に見受けられますが、この「耳の穴からくるぶしが一直線になるのが良い姿勢」という考えには大きな盲点があります。(写真をお借りしといてこう言うのも申し訳ないですが…)

それは“人間の身体は常に動いている”ということ。このように直立して両足をくっつけた状態になるということなどは、それこそ姿勢チェックをする時ぐらいしかないですし、一歩歩いたただけでもこのラインは崩れますよね。

それに、呼吸をしている時でも人間の身体というのは動いています。息を吸う事で肺が拡張して周りを取り囲んでいる肋骨を押すように動かして胸郭が動きますし、横隔膜も上下動を繰り返しています。常に筋肉と骨は動いているということです。

なので、この一本の線という狭くタイトな括りに人間の身体を当てはめてしまうというのは無理があるのではないか?というのが、アスリートをみているトレーナーの方たちの間でも主流になりつつあります。

では、最近アスリートの現場などでも用いられている、呼吸に大きくフォーカスを当てたトレーニングの考え方では、どのような姿勢が正しい姿勢と見受けられているのでしょうか?

それは下記の図の、一番左の骸骨のような姿勢になります。

出典:宇佐接骨院

どの骸骨もそうですが、肋骨の辺りに上蓋、骨盤の下にも蓋のような絵が描いてありますね。

この絵は上の蓋が横隔膜、下の蓋が骨盤底筋群を表しています。

一番左の骸骨が理想的とされる姿勢なのですが、上の蓋と下の蓋が向き合うような形になっていますね。他の骸骨は骨盤が過度に前傾したり、または背中が丸くなってしまったりすることで、横隔膜と骨盤が向き合わない状態となってしまっています。

なぜこのように、上の蓋と下の蓋、つまり横隔膜と骨盤底筋群が向き合うような形が理想的とされ、運動パフォーマンス向上に繋がってくるのでしょうか?

 

良い姿勢が腹腔内圧を保持し、体幹の安定性を高めてくれる

それは横隔膜と骨盤底筋群が互いに向き合うことで、体幹の安定性に大きく関わる『腹腔内圧(IAP)』が保たれた状態になるからです。

というのも、横隔膜は呼吸をする毎にお腹に圧力をかけ、骨盤底筋群は下からその圧力を受け止める役割を担っています。なので、横隔膜と骨盤底筋群が向き合うことで、腹腔の圧は上下左右前後と均等な圧力がかかり姿勢を安定させてくれます。

骸骨の肋骨と骨盤の空洞部分(腹腔)に、大きな風船が置かれて姿勢を安定させてくれるようなイメージです。

もし横隔膜と骨盤底筋群が互いに向き合っていない状態ならば、骨盤底筋群が横隔膜からの圧力を受け止めることができなくなり、圧が身体の弱い部分から漏れてしまいます。結果、腹腔内圧が失われて体幹部は不安定になっていきます。

身体の中心部分である体幹の安定性は、四肢が力強くフレキシブルに動いたり、下半身から生まれた力を上半身に伝えたりと運動のパフォーマンスにとって欠かせない部分です。

「近位の安定性が遠位の動作性をもたらす」という言葉は運動生理学でよく使われたりしますが、正にこのようなことですね。

逆に腹腔内圧が失われて体幹が不安定な状態で日常生活や運動を続けると、本来は身体を支えるために必要ではない他の筋肉や身体の部位が緊長を強いられてしまいますし、負担が重なっていくと身体のあちこちに歪みが生じ、疲労が蓄積し、筋肉、腱、靭帯、軟骨など様々な組織が傷付き、筋の張り、身体や関節の痛みや違和感となって現れてきてしまいます。

このように呼吸は姿勢に関連し、姿勢は体幹に関連する事で運動パフォーマンスにも影響してきます。

ということは、まず私たちが絶えず行っている呼吸を正しく行えるように改善しなければなりませんね。

実際に呼吸をパターンを改善することで、頭部、頸椎、肩甲骨、胸椎の姿勢改善がみられ、腰椎の痛み低下につながること、体幹の安定性が向上することがいくつかの研究で明らかになっています。

また、呼吸に特化したトレーニングを積むことで、持久力や筋力の向上がみられたと2つのメタ分析複数の研究結果を収集し統合的に分析、判断をするもの論文によって報告されているとのこと。

長くなってしまったので、次回は続編として自分が「息をしっかり吸えない」、または「息をしっかり吐けない」人ではないかどうかを確認する方法と、呼吸を正しく行えるように改善するエクササイズを紹介してみたいと思います!

それではフィットネスジャンキーでした!

関連記事:アンチパラドックス呼吸と風船を使ったトレーニング方法

スポンサードリンク